センター試験終わった後、家で泣いた記憶がマジである。

また、名前が森田季節だし、季節的な短編を一個投下。どうしても短編だと言葉遊び的なもののほうがやりやすいですね……。

アサナ・アサナ

「准(じゅん)君と同じ高校に行きますから!」
 と、朝菜が言った時、僕は全力で止めに入った。主な理由は箇条書きにすると、以下のとおり。
1 朝奈の学力では、僕の受ける高校は普通に落ちる可能性が高い。
2 この高校は私立なので、朝那の家庭の財政状況だと金銭的にきつい。
3 しかも高校は大阪。朝名の住んでるところは北海道の帯広。
4 もしも、もしも高校になって別れたりしたら同じ高校になったの一生後悔する。
5 ぶっちゃけ僕ら付き合ってもない。僕も別に従妹の朝奈を恋愛対象で見てない。
6 あと、浅奈、お前、中2だろ。どうやって高校入るんだよ。
7 しかも受験するの男子校だって。
 否定の理由をたくさん並べたのは、麻菜がどんなにバカで理由に納得しなかったとしても、「ダメな理由がたくさんあればやはり無理なのではないか」程度の理解はできるのではないかと考えたからだ。つまり、民主主義らしく数の暴力で戦おうと思ったわけだ。至極正しいやり方だ。でも、浅那は納得しなかった。ちなみに「あさな」の漢字表記がまちまちだけど、これは僕が安佐納の正しい表記を知らないからだ。これだけ並べていけばどれか当たるのではないか。
 しかし、厚狭奈は頑固だった。「0.1%の可能性でもあるなら私は諦めません!」と胸を張って言った。いや、だから100%無理なんだって。あ、なんかこういうやりとり、M-1のパンクブーブーのネタであったよな。とにかく亜鎖奈は妥協しなかった。もしかして、バカすぎて妥協するということを理解できてないのではないかと思うくらいだった。
 そして、受験当日。2月14日。僕は早めの電車で私立啓英高校に向かった。受験会場は高校じゃなくて、ちょっと遠い財団法人なんたら会館という建物だったからだ。ちなみに母さんが前日にカツカレーを作ろうとしたので僕は拒否ってうどんとごはんにしてもらった。ダジャレのために消化に悪そうなものを作られては困る。そう言うと、独り言がなければ准は真面目なのにねと返された。余計なお世話だ。
 啓英高校はこのあたりではなかなかの進学校で、将来を安泰に過ごしたい僕には避けて通れない道なのだ。なにせ、僕は第一印象が悪い――らしい。なんでも、自分でぺらぺらぺらぺらしゃべってしまうそうだ。自覚はないのだけど、お前のその癖なおしたほうがいいといろんな人から言われるからそうなのだろう。じゃあ、せめてできるだけたくさんの資格を持っておこうと思ったのだ。少なくとも、あシャナの気まぐれに振り回されるつもりはない。世間ではバレンタインデーだと浮かれているけど(あるいは泣いているけど)、そんなのにかかずらっている場合じゃないんだ。
 そして、開始一時間以上前に受験会場に着いた。
 あたりはひっそりとしている。さすがに早すぎたのか。でも、いくらなんでも受験会場を示す看板も出ていないのは、やりすぎなんじゃないだろうか。あ、あるいは堂々と受験会場だと書いて変なヤツに目をつけられるのを防ぐためなのかもしれない。近頃は物騒だから、進学校を受験するという理由だけで変な因縁をつけるバカもいるんだ。そういうのから金を恐喝しようとする不良連中だっていないとも限らない。
 とは、思ってみたものの、やっぱり静かすぎないかなあ。ちなみに場所を間違ってるなんてオチはない。一週間前に送られてきた受験の案内書には確かにここでやると書いてあったし、太文字で「会場は本校ではないのでご注意下さい!」と思いっきり強調していた。これで違うかったら詐欺だ。
 僕は正面の裏口から会場に入った。まだ、この時間は正面の自動ドアが空いてないと書いてあったのだ。守衛のおじさんに「受験です」と答えると、おじさんは無愛想にどうぞと言って通してくれた。なんか、むすっとしていた。テンション下がるなあ。
 会場の部屋は小さな会議室で、僕は中ほどのA-37番の席に座った。しつこいが、誰もいない。受付終了まであと五十分だけど、みんな大丈夫なのだろうか。いや、他人の心配はいい。開始まで参考書でもぱらぱらと見て確認をしておこう。
 だが、三十分前になっても誰も来なかった。
 あれ、いくらなんでもおかしいぞ……。
 明らかに何かトラブルがあったんだ。そうでないと、ここまで誰も来ないなんてことはない。この部屋は偶然出席率が悪いのかと思って廊下に出たけど、ほかの部屋も活気がない。絶対に変だ。
「あ、来てたんですね、よかった~」
 そこに、ぁすぁにゃが廊下からやってきた。
 なんか、服は血で汚れていた。
 僕はすごく嫌な予感がした。
「お前、何かしたな!」
 アサナはバカだけど非人道的なことに関しては天才なんだ。きっと、阿鼻叫喚のことをやってのけたに違いない。
「うん」とバカ丁寧なくらい昼前奈は深く首肯した。「受験生は全滅しました」
「全滅って……」
「全部男子だったから、けっこう楽でしたよ。まずモテなさそうな男子は前日までにチョコレートを渡していました。まあ、たいてい我慢できずに食べちゃうから、まあ、その後のことは推して知るべしってやつです。高校受験って倍率低いですからね。30人ほどドロップアウトすれば無条件で合格できるはずなので、楽勝ですよ。あ、致死量には達してないですからご心配なく」
 あ~、な~んだ、割と血なまぐさくない種明かし――ってそんなバカな。
「ウソだ! お前、思いっきり血で汚れてるじゃないか! 白い制服とか返り血浴びましたってくらいになってるぞ!」
「絵の具かケチャップか准君の目の錯覚です」
「無理があるだろ!」
「盛大に転んだだけです」阿殺南はすねたような顔をする。どうやら本当らしい。「別にドジっ子でもいいじゃないですか」
 僕はこの従妹と付き合うのがバカらしくなって、部屋に戻って自分の席に座った。当然、従妹はついてきた。
「お前のせいで受験は無茶苦茶だ」
「でも、同じ高校に入ることはできますよ」
 確かに、亜○奈がほかの受験生をツブすだけなら僕に害はない。僕はそのまま合格できる。こいつと同じ高校に――あれ?
 いやいやいやいや、無理だろ。男子校だぞ、啓英高校は!
 もしや。ある可能性が思いついて僕はずっと前に送られてきた入学案内の連絡先に電話をかけてみた。
「あ、すいません、受験生なんですが」
「あ~、もしかして、君もチョコレートに当たった人? 腹痛を訴える人が多くて困ったよ。予定は一時間ずらしますので、なんとか遅れずに来て下さいね。申し訳ないんですが、調子崩したのが十五人くらいらしくて、日を延期するほどじゃないってことになったんだよね」
「ちなみに受験場所は?」
「は? 高校に決まってるじゃないですか。もしかして案内のなかの地図を落と――」
 ――かちゃ。
「ASANA、お前、騙したな!」
 やっと僕はトリックに気づいた。他の受験生をつぶすよりも、僕をつぶしたほうが話が早い。たとえば、ニセモノの会場案内を送付するとか……。
「あちゃー、ばれてしまいましたね。そうですよ。実際の会場は高校ですよ。准君が高校に来なければ絶対に不合格ですからね。准君が騙されなかったときのことも考えて、チョコも配りましたがその必要はなかったみたいです」
 悪びれた様子も泣く、BTBOBは言う。ちょっとずつ名前の表記が壊れてきた。
「ちょっと待てよ。仮に僕が今年受験できなかったとしても、お前に受験資格はないだろ! どうやって同じ高校に入るんだよ!」
「だから、留年させようと思ったんですよ。一年ダブってもらえば同じ高校に入るチャンスが生まれます。後は男子校に入れないような細工をするだけです」
 そうか、そのほうがはるかに合理的だ――って感心してる場合か!
 僕はあわてて席を立って走った。
「どこへ行くんです?」
「啓英高校だよ! まだ間に合うかもしれない! まだ本試験に間に合うかもしれない! 仮に遅刻したとしても十五分くらいならまだ許される範囲だ。少なくともじっとしているなんて選択肢はない。
 追いかけてくるかと思ったが、あ☆さ☆なは机に座ったまま、あくびをしていた。余裕の笑みで。
「かまいませんよ。どうせ私は准君から離れることなんてありませんから。ありえませんから」
 僕はすぐに施設を抜け出る。ちゃんと正面玄関から出た。裏口の守衛のおっさんがどうも浅茄の父親に似てる気がしたのだ。近くを走ってるタクシーをつかまえた。二万円を突きつけて、今すぐ啓英まで行ってくれと叫んだ。
 五分遅れたけど受験資格は認められる遅刻だった。これならまだまだリカバーできる! 僕はわき目も振らず、すぐに自分のA-37番の席に座った。
 ずきん。 
 だけど、座った途端、激痛が走った。何だ、この痛み……。直後にすごい眠気が襲ってくる。
 あ、このA37って番号…………。
 あさな、って読めるじゃないか。
 まさか、眠り薬のついた針でも椅子に置いていたのか? と、とにかくテストを続けるんだ。精神力で乗り切れ。まず、氏名を書く。
 安佐名 准 ふりがな あさな じゅん。
 あれ、あれ、あれ。
 そういえば、僕の名前って安佐名だった。ええと、確か祖先が安佐って名(みょう)の出身で、「あさみょう」が「あさな」にいつしか変わったんだよとかそんな話をお祖父さんから聞いたような、いやそんなことはどうでもよくて、これってもしかして…………。
 僕の目の前にはいつの間にか「あさな」がいる。
「ほらほら、だから言ったじゃないですか。私からは逃げられないって。だって、私はずっと准君の中にいるんですから。一ミリも離れてない私からどうやって逃げられるって言うんですか? くすくす」
 あれれ、じゃあ、どこまでが僕の見ている現実でどこまでが僕の見ている幻覚なんだ? たとえば、毒入りチョコレートを配ったとかいうのはどうなってるんだ?
 遠くから(いや、きっとたいして遠くではないのだけど気分的に遠くから)試験監督の声がする。
「君、独り言は禁止だぞ」
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